敵から逃れるために深い山道に分け入り、逃れてる途中に発見した深い縦穴に身を潜めて数日が経過していた。 敵は深い森を捜索して迷う危険を避け、あえて待ち伏せする作戦をとったのだ。 二人が、飢えと乾きに耐えかねて、自ら動くのをじっと待っている。 足元に置いてあった水筒を掴んで蓋を開ける。 「…ほら、口あけろ、ロイ」 「………お前…も、ちゃんと飲んでるのか」 「…ああ」 「…嘘をつくな」 「俺はいい。怪我が軽い分、お前より元気だからな」 「お前が、飲め。どうせ、残りはわずかなんだろう?」 「いや、まだ水筒に5、6本分は残ってる」 「嘘をつくな。大体、元からそんなに無いだろうが」 「いいから、口あけろっての!」 ヒューズは中の液体を口に含んで、ロイの顎を掴んで上向かせた。 「…や…」 閉じようとした口唇を舌先で強引に割り開く。口に含んだ液体をロイの喉の奥に流し込んで、鼻を摘んで飲み込ませた。 ロイの喉が上下するのを目で確認してから、強く掴んでいた顎を解放する。 「…お、まえ…、な…ゴホッ、ゴホ」 「…嫌なら、次からは大人しく自分で飲めよ」 「……」 「それよりロイ、お前、熱いぞ。熱が出てきてる。前をゆるめれば、少しは楽だろう」 ヒューズが襟元に伸ばしてきた手を、ロイは咄嗟に掴んで、押さえ込んだ。 「!さ、わるな」 「…?何言ってんだ」 「――このままでいい」 「――…」 目を反らしたロイの横顔を、ヒューズは暫く眉を寄せて見つめていたが、口元を引き結んで、もう一度襟元に手を掛けて前を開いた。 「…ヒューズ!おい!やめろ!」 「……!」 先刻程よりも強く腕を振り払われる。 そんなロイの抵抗は全くの無駄で、少しだけ開いたシャツの間から一瞬み覗いた痕を、ヒューズは見逃さなかった。 そして、その痕が一つで無いことも。 「……」 「……」 時間にして、二日程だろうか。 捕虜として敵の手に堕ちていた間に。 国家連金術師であり、少佐という階級のロイがどんな尋問をされ、どんな扱いを受けたのか、ヒューズは聞くつもりはなかったし、想像するだけで、腸がよじれるような思いに駆られるので、考えないようにしていた。 ヒューズの元に戻された時のロイは、それほど打ちのめされているようには見えなかった。 だが、それはただ、全て。 一緒にいたヒューズに自責の念を少しでも持たせない為に、ロイが張った虚勢にすぎなかったのだと、その時初めて知った。 「…悪かった」 「……謝る必要などないぞ。確かに、少し呼吸が楽になったからな」 「…いや……ああ、そうだな」 ヒューズは苦笑してから、もう一度ロイの首筋を掴んで引き寄せた。 肩に顔を埋めて、見えないように、唇を噛み締めた。 絶対に、ここから無事に抜け出してやる。 そう何度も繰り返し誓いながら、ヒューズは目を閉じた。 Back Next 20060303 |