「大丈夫か?ロイ」 「・・大丈夫なように見えるか?」 「―・・・また、今日も随分無理な飲まされ方をしたみたいだな・・・・」 眉を寄せて、ヒューズは言葉を返した。 この所毎晩の様に、仕事が終ってから、ロイは上官の酒の相手に呼び出されていた。 これも出世の為には仕方無いと、ロイはため息まじりにこぼしながら、黙って付き合ってはいるが、ヒューズはこの呼び出しが、ただの、付き合いの酒席ではないことは、分かっていた。 ロイが初めて酒席に付き合わされて戻ってきた後の姿を見て、ヒューズは目を瞠った。 酒の飲み方を知っているロイが、体調を崩して、意識をなくしかける程に、泥酔させられていたのだ。 異例の出世をしていくロイの存在を、面白くないと思っている軍の上層部の人間など山の様にいる。 今はまだロイよりも上の階級にいるのをいいことに、煙たい存在であるロイに、権力を傘にして嫌がらせをしているのだ。 足元がおぼつかない様子のロイの腕を掴んで、体を支えてやる。 「構うな・・!大体・・・なんで、毎日・・・いるんだ?お前は・・・!」 「仕事で、今こっちに来てると言っただろう。お前さんが、ここの所、毎晩酒席につき合わされてるんで、気になって戻るに戻れん。気分は・・・?」 「最悪だな。正直・・まいるな、こう、毎日だと・・・・」 「・・・・・・」 「将軍クラスになると・・・おかしなヤツが多い・・・おかしな人間しか軍にはいないのかと思えてくる・・・何であいつらは私の体に触りたがるんだ?それだけで、吐きそうだな」 「・・・水が飲めるといいんだが・・飲めるか?」 「聞いてるのか!ヒューズ!触られたと言ったんだ」 「ああ、聞いてるよ!!クソ!」 「・・・・う・・・!」 ロイは口元を押さえて、体を屈めた。 「!!気分が悪いのか?ロイ」 ロイに腕を貸してやりながら、ヒューズは洗面所の前で、体を屈みこませた。 「・・・ヒューズ・・・」 「いいから、我慢せずに、吐いちまえ。スッキリするから」 「・・・・・嫌だ。手を離せ」 ヒューズは、いきなりロイの喉に指を捩じ込んで、吐かせた。 苦しげに体を震わせているロイが、体内から余分なアルルコールを出してしまうまで、強すぎもなく、弱すぎない力加減で、ずっと背中をさすってやる。 「・・・・はあはあ・・・・お前な・・・・」 「大丈夫か?」 「喉が痛い・・・・」 ヒューズは苦笑しながら「すまん」と一言謝った。 「・・・いや・・・気分は、さっきよりは、大分いい」 「そうか、よかった」 「ヒューズ・・・・」 ロイは自分を気遣って、顔を覗き込んでいるヒューズを見つめる。 倒れこむように、腕の中に顔を埋めた。 「おい・・!まだ気分が悪いのか?」 「――好きだ・・・」 「ベッドまで歩けるか?ほら、手を貸すから」 「聞いてるのか!ヒューズ」 「聞いてるよ、この酔っ払いが」 肩と、膝の下に手を差し入れられそうになって、ロイは驚いてヒューズの手を掴んだ。 「な・・何をしようとしてるのだ!?」 「面倒だからベッドに運ぼうとしてるんだが」 「・・・・冗談は、よせ・・・!」 低い、押し殺した声で言って、ロイはヒューズの体を押しのけて、自分の足でベッドへと歩いた。 ヒューズはロイの様子に少しだけ安心して眉を寄せ、口元を吊り上げて笑った。 Back Next |