No.4 キス 「・・・・ふぅ・・・」 中央司令部の執務室で、ロイ・マスタングは短い溜息をついた。 体がかなり疲れていた。体だけではなく、精神的にも、かなり追い詰められている気がしていた。 中央司令部に異動になってから、まだ日が浅いせいもあってか、精神的にも慣れないせいか、心に余裕が持てない。 仕事の方は、東方司令部の頃より、細かな雑務に追われる事が無くなったのだが、きちんと目を通さないといけない重要な書類が回ってくることが多く、手が抜けないせいか、余程疲れを感じる。 ロイは書類にサインをしていた手を休めて、執務机の背後の窓から見えるセントラルの町並みを見つめた。 イーストシティは、物騒事が多かったものの、中央と比べると、何故だかほっとするような、そんな空気があった。 窓外を見ながら、もの思いにふけっていると、ドアと軽くノックする音が響いて、ロイは振り向いて返事をする。 「どうぞ」 ガチャ ドアが開いて、ジャン・ハボックが執務室に軽く一礼しながら入ってくる。 「失礼します」 入室してきたハボックの姿を見止めて、ロイはあからさまに不機嫌な表情を作ってみせた。 「・・・・・ハボック少尉」 「大佐、俺、呼ばれたみたいですけど、何スか?」 「・・・・・・・・・・・・・」 ロイは口元を引き結んで、ハボックを睨みつける。 椅子から立ち上がって、ロイは入り口の側に立つハボックの側にツカツカと歩み寄った。 側まで歩み寄って、ロイは相手を睨んだまま、低い声で問い掛けた。 「最近、私生活が乱れているようだが・・・・」 「−−!?」 ハボックは驚いた様に目を見開いて、二、三歩後退る。 「た、た、大佐・・・・な、何のことスか?」 ハボックの動転の仕方をまじまじと見つめながら、ロイは、大きく溜息をついた。 「私の耳に入らないと思ったのかね?ハボック少尉。嬉しそうに言ってまわっているそうじゃないか。最近『彼女ができた』と」 ハボックの顔色がさっと青ざめるのを見ながら、 「・・・・仕事に支障がない程度なら、別に構わないがね」 ふい、とロイはハボックから目を背ける。 ロイの言葉に、今度はハボックの表情が不機嫌なものに変わる。 「・・・・構わないって、何スか?それ」 「・・・・・・・・・何を怒っているのだ?怒るのは筋違いだと思うが?」 「・・・・・別に。大佐に、何か思って欲しいと、期待なんてしてないスけどね」 ハボックが吐き捨てる様に口にした言葉に、ロイはかっとなって、 「どういう意味だ?」 それでも抑えた声で答えた。 「・・・・・そのままッスよ。大佐・・・・大佐は、俺のこと、どう思ってるんスか?」 真摯な眼差しで、いきなりそう問われて、ロイは咄嗟に言葉が返せなかった。 「・・・・・・そ、それは・・・・」 俯いて視線を泳がせるロイの両手を掴んで、ハボックは背後のドアに押し付けた。 バン 「・・・・痛!ハボック・・・・!?」 「・・・・・それは?ちゃんと答えてくださいよ、大佐」 「・・・・・・少尉は・・・私の部・・・・」 ロイの言葉を遮る様にハボックは口唇を塞いだ。 差し入れた舌で、相手の舌を絡めとって、吸い上げる。 「・・・・・っ・・・・う・・・ん・・・・」 歯列を丁寧に舌でなぞり、時々軽く舌を噛んで愛撫する。 「・・・ん・・・・」 ロイの下半身に甘い痺れが走って、合わさった口唇の間から甘い声が漏れる。 長い口づけから開放されて、あふれて飲み込めなかった唾液が漏れて、顎を伝って流れ落ちた。 荒い息を吐きながら、潤んだ目でハボックを見返すロイの目を、ハボックは見惚れる様に眺めながら、 「・・・・・もう何日、大佐に触れさせてもらってないか・・・・大佐は、そんな事分かってないでしょう?中央に来て、引っ越した部屋の鍵、俺大佐に渡しましたよね?最初の日に」 「・・・・・・・・・・・・」 「・・・・・・・一体いつになったら、部屋に来てくれるんスか?」 「・・・仕事に追われて忙しいことくらい・・・分かっていると思ったのだがな」 ハボックはロイの責める様な言葉に一瞬言葉を詰まらせたが、すぐに、 「分かってるッスよ。だから、何も言わないで今まで我慢してたんです。でも・・・・・俺だって、この土地は慣れないんです。寂しい日だって、あるじゃないですか。そんな時、側にいて欲しいと思ったら駄目なんスか?」 「・・・・・」 ハボックはぐい、と強く下半身をロイの腰に押し付けた。 「−−−つ・・」 「・・・分かります?キスだけで・・・俺の、こんなに・・・・」 「やめろ!ここを何処だと思ってる」 頬を赤らめて腕をつぱってハボックの胸を押し返すロイを見下ろしながら、ハボックは溜息を吐いて、体を放した。 「・・・すみません、こんな場所で。失礼しました」 あっさりと開放された事に、ロイは一瞬もの足りなさの様なものを感じながら、ハボックを見上げた。 「俺、もう仕事に戻っていいですか?今日はちょっと仕事がたてこんでるんで・・・・・」 執務室のドアのノブに手を掛けてハボックに、ロイは、 「ハボック少尉」 慌てて、追いすがる様に声を掛けた。 「−−−何スか?」 振り向いたハボックが、飄々とした態度で返事を返す。 「・・・・今日、仕事が終わってから・・・・・・・・・・・・・・・・部屋に行く」 語尾は消え入りそうなものだったが、ハボックは聞き漏らさなかった。 「俺、今日はいつもの3倍速モードで仕事するッス」 見るからに嬉しそうな表情で執務室を出て行くハボックを見送りながら、ロイは溜息まじりに微笑んだ。 み、み、短い・・・・・。 でもって甘甘を書いてるつもりでいたのですが(Σ('◇'*)エェッ)・・・・こ、これってハボックちょっと鬼?では・・・・滝汗・・・・・・・・・。 最初お題のNO24のつもりで書いていたのに、途中から変わってしまいました。お題が・・・ でもって、これは一応お題NO38「夜までの時間」に続きます〜〜 Back 20040510 |