「大佐、寒くないっスか?」
「ああ…」
ゆっくりと伸ばして、抱き寄せた体は、思っていたよりもずっと冷たくて、ハボックは眉を寄せた。
「私は大佐じゃない、と、何度言ったら分かるのだ?今は……お前の方が上官だ」
「階級は…そうだとしても、あんたは俺の上官です。これからも、ずっと」

何度も口に出して伝えた言葉。
繰り返し、何度も。

けれど、いつもその言葉に返事が戻る事はない。
ただいつも合わせた視線を外して、悲しげに目を伏せるだけのロイ。
ハボックは強く自分の傍にロイの体を引き寄せて、冷え切っている頬に、頬を寄せた。
「…っ…ハボック…腕…」
知らずに込め過ぎていた力に、苦しげにロイが身じろいだが、それ以上の抵抗はせずに、ハボックの腕の中で大人しく抱かれている。
こんな風に、まるで心がここに無いかの様なロイに触れていても、やるせない思いがハボックの胸の内に広がる。
こんな風なロイを見たくない。
そう思いながら逆に…今のロイにどうしようもなく欲情してしまうのも、本当だった。
こんな弱々しく儚い姿が、どれだけ周囲の人間の庇護欲と、征服欲をかき立ているのか、この人は全く知らないのだろう、と思う。
触れた場所からじわりと這い上がってくるような熱を抑え込んで、ハボックは目を閉じた。
今は、決して触れない。
ロイが、抵抗しないだろうと思えるからだ。

目の前で爆ぜる暖炉の火を暫く黙ったまま見つめて、そして窓外に視線を移した。
「……雪、強くなってきたっスね」
「……そうだな」
「…もう少し……あんたに、俺の体温がうつるまで……こうしてていいっスか?」
「……ああ」
ハボックは口元を上げて笑ってから、ロイを両腕で強く抱きしめた。

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